あれは小学校三年か四年の頃。
ウチの家では鳩を飼っていた。
全身真っ白な鳩だった。
確か最初に飼っていたのは、四羽の鳩。
オスが二羽のメスが二羽。
毎朝、鳩小屋の扉を開けると、目の前の杉の森より更に高く羽ばたいて行って、四羽並んで、弧を描く様に空中を旋回して見せた。
その様は、優雅であり、上品であり、まさに平和の象徴そのものと言った崇高ささえ感じた。
鳩の習性について非常に驚かされた時があった。
父が鳩を小さなオリに入れて、車のトランクに入れた。
そして、家族全員で車に乗り込み、20キロ以上離れた隣町までドライブ。
父は途中、車を停め、トランクを開けると、オリから鳩を外に放した。
鳩は 瞬く間に大空遠く羽ばたいて行った。
「あぁ〜なんて事を…」
幼い自分の目には、父が鳩を捨てたのだと映った。
父に、鳩を捨てたのかと?と尋ねても、答えない。
父は遂にトチ狂ってしまったのだろうか?と思った。
その後、隣町で買い物。
のんきに買い物なんかして、鳩の事は気にならないのか?
なんて冷酷な親だろうと思った。
三時間程経って、家に車で帰って見ると、なんと、鳩が家に帰っていて、鳩小屋の中に居るではないか?
暗いトランクの中に居て、景色も見てないのに、何で帰れたんだ?
あまりにアンビリーバブルな出来事に頭が混乱した。
そこで初めて、親から種明かししてもらった。
なんでも、鳩の脳には、あらかじめ方位磁石の様な能力が備わってるという事を教えられ、大いに驚かされた。
そんな鳩達も時折、交尾して卵を産んだ。
孵化して鳩のヒナが生まれると、まだ羽も生えて無くて、とても鳩には見えなかった。
ヒナは成長し、やがて空を飛べるまで成長した。
鳩は何度も卵を産むから次第に鳩の数も増えて行った。
ある日、二羽のヒナが生まれて、二羽とも可愛く並んで、親鳩の口からミルクをもらっていた。
鳩は珍しい生き物で、口からミルクを分泌してヒナに与える。
二羽のヒナの一羽の方が欲張りで、身体を前のめりに突き出し、親の口から貰うミルクをいつも一人占めしている姿を見ていた。
最初のうちは、特に気にしていなかったが、日に日に、欲張りな方のヒナだけが身体が大きくなって行き、もう一羽のヒナは小さいままだった。
一週間が経ち、二羽のヒナの身体の大きさが倍以上にもかけ離れて、遂には小さい方のヒナが衰弱して倒れた。
こんなになるまで、なんで放っておいたのだろう?
親鳩は何故、この子にはミルクを与えなかったのだろうか?
鳩小屋を空け、痩せ細って、もう首を上げる力も無いヒナを取り出したが、もう虫の息。
可哀想で可哀想で、涙が出てきた。
栄養剤を水で溶かして、飲ませても、もう 何の効き目も無かった。
遂には、そのヒナは息を引き取ってしまった。
雪の降る寒い冬の午後だった。
あまりに不憫で、泣きながら、庭の土を掘り、ヒナを埋葬した。
あぁ、なんと無情な世界なのだろう。
鳩の世界、ましてや血を分けた兄弟同士のヒナの間にさえ、生存競争が存在するのか?と悲しくなった。
もう一つ、鳩に関して忘れられない記憶がある。
鳩は、例え飼い主であっても、なつく事は無かった。
手に取って抱きしめ様と思っても、逃げるのが通常だった。
しかし、ただ一羽だけ、非常になついてくる子供の鳩がいた。
その小鳩は手を差し出すと、可愛い事に飛んで来て、手の上に乗って来る。
手の平の上に餌を乗せると、腕に乗っかったまま、餌をついばんだ。
撫でても、鳩のクセに警戒心が薄く、むしろ身体をこちらに委ねて来る程、人懐っこい小鳩だった。
自分は、毎朝、その小鳩と戯れるのが楽しみで、こんな可愛い鳩は他に居ないとそれはもう、自分の子供の様に可愛いがった。
ある日の夕方の事だった。
放課後に友達と遊んで、家に帰った。
父がワサワサと鳩小屋の前で作業していて、開口一番で聞いた言葉。
「鳩小屋にノラ猫が入り込んで、あの懐っこい小鳩を食って殺してしまった。」
聞いた瞬間、心臓が止まりそうに驚き、目の前が真っ暗になった。
「嘘だ!今朝も一緒に遊んでいたのに!」
しかし、あの小鳩の姿はどこにも無かった。
次の瞬間、涙がどっと溢れて来た。
そのまま、家の中に飛び込んで、布団の中に潜り込み、大声で泣いた。
泣き止んでは、あの小鳩の懐いてくる姿を思い出し、また泣いた。
猫に襲われた時、どんなに怖かっただろう?と想像し、胸が苦しかった。
その後、しばらくは鳩小屋を見る度、悲しさが込み上げて来た。
忘れたくても忘れられない苦い記憶。
あの小鳩は とおの昔に死んでしまったが、
今だ 自分の心の中に生きており、目をつぶれば、差し出した手の上に嬉しそうに飛び寄って来る あの愛しい姿が映し出されるのです。
ウチの家では鳩を飼っていた。
全身真っ白な鳩だった。
確か最初に飼っていたのは、四羽の鳩。
オスが二羽のメスが二羽。
毎朝、鳩小屋の扉を開けると、目の前の杉の森より更に高く羽ばたいて行って、四羽並んで、弧を描く様に空中を旋回して見せた。
その様は、優雅であり、上品であり、まさに平和の象徴そのものと言った崇高ささえ感じた。
鳩の習性について非常に驚かされた時があった。
父が鳩を小さなオリに入れて、車のトランクに入れた。
そして、家族全員で車に乗り込み、20キロ以上離れた隣町までドライブ。
父は途中、車を停め、トランクを開けると、オリから鳩を外に放した。
鳩は 瞬く間に大空遠く羽ばたいて行った。
「あぁ〜なんて事を…」
幼い自分の目には、父が鳩を捨てたのだと映った。
父に、鳩を捨てたのかと?と尋ねても、答えない。
父は遂にトチ狂ってしまったのだろうか?と思った。
その後、隣町で買い物。
のんきに買い物なんかして、鳩の事は気にならないのか?
なんて冷酷な親だろうと思った。
三時間程経って、家に車で帰って見ると、なんと、鳩が家に帰っていて、鳩小屋の中に居るではないか?
暗いトランクの中に居て、景色も見てないのに、何で帰れたんだ?
あまりにアンビリーバブルな出来事に頭が混乱した。
そこで初めて、親から種明かししてもらった。
なんでも、鳩の脳には、あらかじめ方位磁石の様な能力が備わってるという事を教えられ、大いに驚かされた。
そんな鳩達も時折、交尾して卵を産んだ。
孵化して鳩のヒナが生まれると、まだ羽も生えて無くて、とても鳩には見えなかった。
ヒナは成長し、やがて空を飛べるまで成長した。
鳩は何度も卵を産むから次第に鳩の数も増えて行った。
ある日、二羽のヒナが生まれて、二羽とも可愛く並んで、親鳩の口からミルクをもらっていた。
鳩は珍しい生き物で、口からミルクを分泌してヒナに与える。
二羽のヒナの一羽の方が欲張りで、身体を前のめりに突き出し、親の口から貰うミルクをいつも一人占めしている姿を見ていた。
最初のうちは、特に気にしていなかったが、日に日に、欲張りな方のヒナだけが身体が大きくなって行き、もう一羽のヒナは小さいままだった。
一週間が経ち、二羽のヒナの身体の大きさが倍以上にもかけ離れて、遂には小さい方のヒナが衰弱して倒れた。
こんなになるまで、なんで放っておいたのだろう?
親鳩は何故、この子にはミルクを与えなかったのだろうか?
鳩小屋を空け、痩せ細って、もう首を上げる力も無いヒナを取り出したが、もう虫の息。
可哀想で可哀想で、涙が出てきた。
栄養剤を水で溶かして、飲ませても、もう 何の効き目も無かった。
遂には、そのヒナは息を引き取ってしまった。
雪の降る寒い冬の午後だった。
あまりに不憫で、泣きながら、庭の土を掘り、ヒナを埋葬した。
あぁ、なんと無情な世界なのだろう。
鳩の世界、ましてや血を分けた兄弟同士のヒナの間にさえ、生存競争が存在するのか?と悲しくなった。
もう一つ、鳩に関して忘れられない記憶がある。
鳩は、例え飼い主であっても、なつく事は無かった。
手に取って抱きしめ様と思っても、逃げるのが通常だった。
しかし、ただ一羽だけ、非常になついてくる子供の鳩がいた。
その小鳩は手を差し出すと、可愛い事に飛んで来て、手の上に乗って来る。
手の平の上に餌を乗せると、腕に乗っかったまま、餌をついばんだ。
撫でても、鳩のクセに警戒心が薄く、むしろ身体をこちらに委ねて来る程、人懐っこい小鳩だった。
自分は、毎朝、その小鳩と戯れるのが楽しみで、こんな可愛い鳩は他に居ないとそれはもう、自分の子供の様に可愛いがった。
ある日の夕方の事だった。
放課後に友達と遊んで、家に帰った。
父がワサワサと鳩小屋の前で作業していて、開口一番で聞いた言葉。
「鳩小屋にノラ猫が入り込んで、あの懐っこい小鳩を食って殺してしまった。」
聞いた瞬間、心臓が止まりそうに驚き、目の前が真っ暗になった。
「嘘だ!今朝も一緒に遊んでいたのに!」
しかし、あの小鳩の姿はどこにも無かった。
次の瞬間、涙がどっと溢れて来た。
そのまま、家の中に飛び込んで、布団の中に潜り込み、大声で泣いた。
泣き止んでは、あの小鳩の懐いてくる姿を思い出し、また泣いた。
猫に襲われた時、どんなに怖かっただろう?と想像し、胸が苦しかった。
その後、しばらくは鳩小屋を見る度、悲しさが込み上げて来た。
忘れたくても忘れられない苦い記憶。
あの小鳩は とおの昔に死んでしまったが、
今だ 自分の心の中に生きており、目をつぶれば、差し出した手の上に嬉しそうに飛び寄って来る あの愛しい姿が映し出されるのです。