夢日記 (極道サウンズ編)

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    とある田舎の市営バスに乗っていた。


    ただの一人旅。


    風吹くままの気楽さ。


    車窓から次々と展開する牧歌的風景には心洗われる思い。


    突き抜ける青空。


    遠くには新緑の森。


    さらに遠くには薄い青色をした山脈。


    あぁ〜なんて素晴らしい1日だろう。


    なにモノにも束縛されぬフリーダム。


    夢見心地の優雅なひととき。


    脳内流れるナンバーはストリートスライダーズ「風が強い日」


    「なんて平和な一日さ〜yeah


    少し一人で居させてよ〜」


    そんな曲のサビが ゆるやかに頭の中を巡っていた。


    と、その時、



    「キキーっ」



    「バタん」



    バスが停留所に止まり、乗客が乗り込んで来た。


    なにげに乗車口の方に目をやると、ハッと息を飲んだ。


    その人物を見た瞬間、我が瞳孔が全開。



    ヤーさんである。


    俗にいう反社会的勢力の一員の方である。


    威圧感という名の圧倒的なオーラ。


    まるでバスの中に戦車が乗り込んで来たかのような勢い。


    顔は極悪。


    身体も無駄にデカい。


    安岡力也を更に狂暴にした様な風貌だ。


    過去に三人ぐらい殺したと聞かされても、それ本当の話なんだろなと信じてしまうであろう その凶悪面。


    世の中、失うモノが無い人間ほど恐いものはないのである。


    その顔が目に入った瞬間、思わずサッと眼をそらしてしまうのは、人間であるが故の条件反射と言えるだろう。


    自分は運転手さん側の右列の縦座りの座席に座っていたが。ヤーさんは、よりによって車内通路を挟んで隣がわ、俺の左真横の障害者用の横並びの席にドカっと腰をおろした。


    俺の横顔をヤーさんが真横から眺めるかっこうだ。


    左の方角から伝わってくるイヤーなパワー。


    視線を感じるのだ。


    わざわざ横を見なくても、ジーッと こちらを凝視している視線が痛い程に体感で伝わってくる。


    これは決して心地良い状態ではない。


    田舎のバスで便数が極端に少ない上、到着駅は はるか先だが、それでも次の停留所で真っ先に途中下車したいとすら思った。


    そんな緊迫した状態で居たのも束の間。


    「よう!ニイちゃん!ロックやってんの?」



    うわー、来た!


    来たよ。


    遂に来てしまったよ。


    今、一番来て欲しく無いやつ来ちゃったよ。



    恐る恐る左の方向に顔を向けると、


    うわ、ガビーン!俺の方見てるよ、ガン見だよ。


    えー?マジで?何?この最悪な展開。


    もしかして夢なんじゃねぇの?


    「ニイちゃん?」って呼んでたけど、ホントに俺の事かな・・?


    あわてて車内を見回すも、周りにはジイさんとバアさんしか乗っておらず、しかも そのジイさんバアさん達は無情な事に すがるような表情の俺の視線からも眼をそらし顔をそむけた。


    皆、面倒な事には巻き込まれたくないと心のシャッターを閉じてしまったらしい。



    Oh〜ジーザス、 


    アラーの神よ、


    ほとけ様よ。


    あなた方は何故?こうも過酷な試練を我に与えたまうのですか?


    こんな時は大抵、神は助けてはくれないものである。


    己の力でなんとかせよと。


    つくづく、不幸な星の下に生まれた己の運命を呪った。


    しかし、そんな事を考えている場合ではなかった。


    今の質問をスルーするわけには行かない。


    シカトすれば無間地獄行き、今はまだ三途の川を渡って地獄の門を叩いたぐらいの所である。


    「あっ、俺ですか?あっ、ロックというか? ん〜? あっ、まぁ、ロックみたいな、あっ、いや、すいません、ロックやってます」


    もう、自分でも、何をどう喋っているんだか?訳がわからない。


    ただただ気が動転していると、


    「ニイちゃん、ちょっと隣に座れよ。」


    マジかよ?何で、今現在考えられる中で世界で一番近寄りたくない人の隣に座んなきゃいけないんだよ?


    そんな心の声を圧し殺し、そーっと、ヤーさんの隣に座る。


    するとヤーさんは何故か?さっきの横柄な態度とは打って変わり、小声で耳元でささやく様に、


    「実はよ、俺もロックやってんだよ」


    などと申されるから耳を疑った。


    (あなたが言うロックって、監獄ロック?ですかい?)


    そう心の中で呟いた。


    その凶悪顔からは発せられる「ロック」という言葉にはどうにも「監獄」という言葉がセットでくっついて来てしまう。


    そして懐からおもむろにノートを取り出したかと思うと、ページをめくって見せた。


    「これはな、俺の曲なんだよ」と。


    恐る恐るノートを覗くと、そのページ、楽譜を書いているつもりらしいのだが、とにかく字が下手クソ過ぎて読めたものではない。


    直線で書かれるハズの五線譜はグニャングニャンに曲がって描かれており、まるで寝相の悪いミミズの家族の様である。


    音符なんてアスファルトの上で干からびたオタマジャクシだ。


    曲目や歌詞に至っては、これがホントに日本語で書かれた字なのか?って程に汚く、これってアラビア文字だよね?って位に解読不可能。


    しかし、ヤーさんは眉間にシワを寄せ真剣な表情で曲についての解説を続ける。


    その下手くそな楽譜とヤーさんの真剣さのギャップが激し過ぎて、腹の奥底の方から笑いが込み上げて来た。


    いや、しかし・・、ここで笑ってはいけない、絶対。


    笑ったら殺られてしまう。


    しかし、笑いを我慢すればするほど、さらに増幅された笑いの大波が押し寄せて来て、腹筋に力が入り過ぎて苦しい。


    そして、ヤーさんはこの曲は「S先生に作曲してもらった」と語った。


    S!まじで?


    Sは自分よりも年下の友人で、良く知っているヤツだ。


    Sに会えば挨拶がわりに軽く蹴りを入れる位の間柄なだけに、そのSの事を「先生」と呼んでいるヤーさんのスケールの小ささに更に込み上げる笑いが増殖。


    吹き出しそうになる感情を抑えるのに必死な状態。


    もう一発、何かが来たらトドメである。


    絶対無理、耐えられるハズがない。


    そして、無慈悲な事に、その「もう一発」は直ぐに来てしまった。


    ヤーさんは突然、その曲を歌い出したのだ。


    もう、たまらない。


    スーパー歌ヘタクソ。


    キー全然合ってねぇし、


    大体、これのどこがロックなんだよ?


    全然ロックじゃねぇし、完全に演歌じゃねぇかよ?


    それはNHKのど自慢の噛ませ犬の様な「お笑い目的」の役目で出場されられた音痴のジイさんばりで、ギリギリまで せき止めていた溜まりに溜まった笑いが一気に爆発。


    もう無理、この笑いを我慢するのは死ぬよりも難しい。


    俺は大爆笑すると同時に勢い良く席を立ち、止まらぬ大笑いのまま、前方の降車口めがけ全力ダッシュで逃げた。


    背後に恐怖を感じたその瞬間・・・、目が覚めた。


    全体の時間的には ほんの数分間の出来事だったのだが、軽く一時間以上に感じる拷問に近い緊迫感満載の夢であった。



    おしまい。













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